Sola Presents

メフィラス星人


メフィラス星人(ウルトラマン)


「よそう……ウルトラマン。宇宙人同士が闘っても、しょうがない」
──地球人のこころってやつは、そんなにいいものなのかい?

『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」に登場した初代メフィラス星人は、シリーズにあまた登場する宇宙人のなかでも異色な存在。ケムール人やバルタン星人を配下におく凶悪宇宙人でありながら、自ら「私は暴力がきらいでね」と語り、武力によらない地球征服をもくろむ。
その手口とは、科学特捜隊隊員フジ・アキコを巨大化させて東京の街で暴れさせ、そのうえで彼女の弟サトルに、「地球を売りわたせ」とせまる。宇宙船のなかに閉じこめたサトル少年に「力ずくで地球を奪うのは、自分のルールに反する」と説き、「どうだね、この私にたったひとこと『地球をあげます』と言ってくれないか」ともちかける。そのさまは、『巨人の星』の星一徹役も演じた加藤精三の声の魅力とあいまって、なにやら哲学的な深みを帯びている。
無重力室に監禁されてもなお、「ぼくひとりがどんなに長生きしたって、どんなにいい暮らしができたって、ちっともうれしくなんかないやい! ぼくは、地球の人間なんだぞー」と、申し出を拒否するサトル少年。ついにメフィラス星人は、「ほざくな!」と、紳士的態度を一変させて怒りをあらわにする。それでも少年に直接的な危害を与えないところは、一貫した思想があるようだ。
その後、テレポートで呼び出したハヤタ隊員に「子どもでも、地球を売りわたすような人間はいない」と指摘されるが、これは、「子どもでも」ではなく「子どもだけは」のまちがいだ。おそらく、「幼いものであれば、地球への執着が弱い」とメフィラス星人は考えたのであろうが、じつは大人になるほどそのような全体のためにこの利益をかえりみない精神はすり減っている。彼は、子どもでなく国会議事堂あたりをねらって、政治家と交渉すべきだった。
さて、この後ウルトラマンとの一騎打ちがはじまる。巨大化したアキコ隊員には東京の街をどんどん破壊させたが、自分の闘いでは、建物の損壊にいっさい加担しないよう、ちゃんと場所が考慮されているところはさすが。波状破壊光線「ペアハンド光線」や「グリップビーム」を用いてウルトラマンと互角に闘う。しかし、戦いのさなかにとつぜん腕をふり降ろし、「よそう……」とつぶやく。「宇宙人同士が闘っても、しょうがない」と、停戦をもちかけるのだ。「地球人の心に負けた」と潔く認め、「いつか私に地球を売りわたす人間が、必ずいるはずだ。必ずくるぞ。ワハハハハ……」と言い残して去っていく。
去っていくということは、ウルトラマンに唯一やっつけられなかった悪役ということでもある。彼の姿を、ウルトラマンはどんな気持ちで見送ったのだろうか。ブラウン管の向こう側で響く「必ず」の声にどきりとしたのは、私だけではないはずだ。
余談だが、メフィラス星人はハヤテ隊員に、「おまえは宇宙人なのか? 人間なのか?」と問いただす。これは、アメリカ統治下にあった沖縄から東京に出てきた脚本家金城哲夫が自分自身のアイデンティティを模索する苦悩の言葉にも重なって聴こえる。(村中李衣)



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プロフィール


メフィラス星人

●悪行・罪状
外患罪・監禁罪・暴行罪

●職業
悪質宇宙人

●国籍
メフィラス星

●年齢
不詳


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