Sola Presents

怪人二十面相


怪人二十面相(少年探偵団シリーズ)


「なにしろ、自分の顔すら忘れてしまったほどだからね」
──ダークヒーローは愉快犯か

江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズは、子どものころに読みまくったが、あらためて読んでみて、大人も十分楽しめる作品だと思った。
私立探偵の明智小五郎と、小林少年を団長とする少年探偵団(BDバッチをつけた正団員とチンピラ別働隊で構成)が、大盗賊の怪人二十面相と戦いを繰り広げる物語で、シリーズは全26巻。1938(昭和11)年の『怪人二十面相』が第1作だ。
「東京中の人々が、まるでお天気の挨拶でもするように噂する」世間を騒がせる大盗賊だが、けっして人を殺さない。池波正太郎『鬼平犯科帳』に登場する正統派盗賊の、外道働きはしないという仁義「犯さず殺さず貧しき者からは奪わず」が、怪人二十面相にも受け継がれていた。
『青銅仮面』の冒頭では、真夜中の銀座に、青銅の仮面をつけた怪物がたくさんの懐中時計をぶらさげながら出現する。月明かりの銀座の街頭の描写は、いまの銀座からは想像もできないほど暗く、闇が魅力的に描かれている。大人読者にも耐えうるエンターテイメントたるゆえんだ。
二十面相は、変装の名人でもある。男でも女でも老人でも若者でも、郵便ポストや巨大カブトムシや黄金の豹にさえも化けられ、声色まで変えられる。自分でも本当の顔を忘れたというくらいだ。こうなったら変装よりは仮装で、コスプレの元祖と名づけてもいい。 
しかも、盗みに入るまえには必ず予告状を送りつける。運悪く捕まって手錠をかけられても、縄抜けならぬ手錠抜けをしてしまったり、さらに運悪く牢屋に入れられても、いつのまにか脱獄をしてしまうのだ。
このように変幻自在に姿を変える目立ちたがり屋が、ダークヒーロー怪人二十面相なのである。
もっとも多く変装したのは、最大のライバルである明智小五郎になることで、明智小五郎もまた、自ら変装して対峙する。名探偵と怪盗は同一人物ではないのかという説も生まれるほどだ。第8巻「怪奇四十面相」では、冒頭から明智探偵になって脱獄している。
脱獄や逃走は限りなくある。そのために使う小道具をいつも携帯していて、逃げ足は速く、二十面相の見せ場になっている。
『宇宙怪人』では、警察や明智小五郎に向かって「戦争を起こしてたくさんの人を殺した悪い奴らがつかまらず、自分だけがつかまる」と憤慨して、大演説したりもする。
そんな二十面相に明智小五郎より魅力を感じるのは、私だけではないだろう。
二十面相には、100人以上ともいわれる手下がいる。ヘリコプターや潜航艇の操縦者、腹話術師などスペシャリストも多いが、信頼しあって心を許せる友人はいなかったようだ。素顔はだれにも見せない孤独な天才泥棒、それが怪人二十面相。
ネーミングの誕生には、そのころの時代を反映したエピソードがある。乱歩は「怪盗ルパン」を意識して、当初はタイトルを「怪盗二十面相」にした。しかし、少年雑誌倫理規定に「盗」という使いかたが抵触したので、「怪人」にしたということらしい。
26巻の物語の展開は、どこかテレビドラマの超長寿番組だった「水戸黄門」とも共通している。マンネリ化しているが、ついつい観てしまう、あのおもしろさだ。
子ども時代に怪人二十面相と出会ってしまった者は、大人になっても、大都会から消えてしまった闇を求めて、雑踏にその姿を探しているのかもしれない。(本木洋子)


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プロフィール


怪人二十面相

●悪行・罪状
拉致監禁罪・誘拐罪・窃盗罪・銃刀法違反罪・住居侵入罪

●職業
泥棒

●国籍
日本
2004年から、三重県名張市に特別住民票住民登録されている。それによると、
 生年月日:不詳
 性別:不明
 住所:架空所在地
 世帯主 江戸川乱歩
とある

●知力
天才

●末路
不明

●決め台詞
とくにないが、「なにしろ、じぶんの顔すら忘れてしまったほどだからね」は、変装の名人らしい台詞として採用

●特技
変装・忍術・抜群の運動神経・マジック・催眠術・フェンシング・柔道五段(三段になったりもする)など

●秘密兵器
義手つき上着・細引き(細縄)・ひとり用ヘリコプター・小型無電機・気球・眼鏡とつけ髭・幻灯機などたくさん


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怪人二十面相





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