Sola Presents

地獄大使


地獄大使(仮面ライダー)


「ショッカー軍団、万歳!」
──信じることも裏切ることも不器用、それがきみの弱点だったね

1966年にテレビ放送を開始した『ウルトラマン』以降、特撮の主流は宇宙人や怪獣だった。ところが、1971年に登場した『仮面ライダー』は、主役も敵もみな改造人間。人間の根底にある正義と悪を見つめ続けることにこだわった。
さて、今回とりあげる「地獄大使」(53話~62話、64話~67話、69話~79話に登場)は、アジアのショッカー支部で活躍が認められて日本支部にやってきた大幹部である。もともとは、アメリカ西部の砂漠でガラガラ蛇の研究をおこなっていたヘビ博士。右手に持つ鞭には高圧電気が流れており、左手の巨大な爪からはガラガラヘビの猛毒、右手はどんなものでもつぶす力を有する。
ショッカー大幹部きっての実践派で、何度も前線指揮をとった。着手した悪の作戦も、大規模基地の建設や全国規模のテロ、細菌戦の企てとスケールが大きく、製作者は当時の世界情勢をかなり意識していたと思われる。
冷静クールなメンバー揃いの幹部のなかではめずらしい直情激昂タイプで、感情的なおりあいの悪さで同僚の死神博士とうまく手を組むことができず、ナマズギラーの充電忘れという単純なミスを犯し、もう少しでライダーを倒せるはずのチャンスを逃してしまうこともあった。そういう人間くさい部分が、悪役でありながらも視聴者の心を少なからずつかんだ。
自分で仕組んだ芝居とはいえ、密告の罪で処刑される(ふりをした)現場に死刑執行立会人として本郷猛を指名し、「長いあいだ好敵手だったきみが快く私の立会人になってくれたことに対して、最後にひとこと礼を言わせてもらうよ、ありがとう」とつぶやき、本郷にも真顔で「きみの立会人に選ばれたことを光栄に思っている」と語らせるあたり、かなり心情的なものを重要視する悪役であったことはまちがいない。
それゆえ、その情のもろさで自分自身をしばり、苦悩することにもなる。忠誠心を誓い続けてきた組織が自分を見放したのではないかという疑いを胸に秘めたまま、ショッカー内部告発を装った捨て身作戦を決行し、ショッカー内の自分の地位を奪回しようとする。この複雑かつ屈折した作戦は、子ども視聴者を混乱させるばかりでなく、おそらく地獄大使自身の心をもかき乱したのではあるまいか。最期の壮絶な叫び声「ショッカー軍団万歳!」は、その混乱を必死にふりきり、ショッカーに所属することこそ自分の存在意義であると信じこもうとする思いの表れだったろう。
だが、この叫び声が報われぬものであることを決定づけるかのように、爆死した大使の背後から首領の声が響く。
「ショッカー日本支部はたったいま放棄する。そして、恐るべき組織が創られるのだ。また会おう、仮面ライダー!」
人間に潜む善と悪。強さの裏側に潜む弱さ。地獄大使は、そのなかで揺れ動いたもっともわかりやすい悪役だった。(村中李衣)


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プロフィール


地獄大使

●悪行・罪状
内乱罪・騒乱罪・浄水毒物等混入罪・傷害罪・殺人罪・監禁罪・脅迫罪・加害目的誘拐罪

●職業
ショッカ―軍団幹部

●国籍
アメリカ

●年齢
不詳


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