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福本友美子

今も手元にある大切な絵本『こねこのぴっち』。5歳のときに買ってもらった岩波子どもの本の1冊である。表紙にはまっすぐこちらを見つめる小さな黒猫。忘れられない場面がたくさんある。小さいぴっちがオンドリのまねをしながら歩くところ、やさしいヤギとの会話、ウサギ小屋に取り残された一夜のこわかったこと、おばあさんに助けられてタオルにくるまれ、牛乳を飲ませてもらう様子。大きすぎるベッドに寝かされたぴっちの頼りなく小さいこと。そして庭で開かれたぴっちをはげます会の幸福感。今でも、何という洒落たペンの動きだろうとほれぼれする。この絵を飽かずながめ、訳文のやさしい響きに安心していた。当時の表紙は淡いピンク色で、それも好きだった。後に原書と同じ横長の大型絵本として出版されたが、当時は縦書き右開きの小型版だったから絵も小さい。けれどこの小ささが子ども心にいとおしかったように思う。
この本を見ると今も鮮明に思い出す一つの光景は、子猫のはいった箱を大事にかかえて電車に乗っている幼い私。幼稚園でいちばん仲良しのMちゃんの家に子猫が3匹生まれ、母と一緒に見に行って、気に入った子猫を1匹もらうことになったのだった。私は迷わず茶トラの雄の子猫を選んだ。はじめて自分のものになった小さな生き物をかかえて、うれしさと心配の入り混じった高揚感を今も思い出すことができる。
猫をもらったお礼に、大好きな『こねこのぴっち』をもう1冊買ってもらい、Mちゃんにあげた。彼女との長い親交の中で、この思い出は「そうそう、あの本!」と、たびたび語られたが、6年前彼女の急逝により途絶えてしまった。この本を見ると今も鮮明に思い出すもう一つの光景は、彼女の笑顔となった。

●福本友美子(ふくもと・ゆみこ)
児童書翻訳家。高校の図書室で石井桃子著『子どもの図書館』をみつけ、子どもと一緒に本を読む楽しさを知る。まっしぐらに公共図書館員となったが、子育てのため退職。現場を離れても図書館員の役に立つ仕事をしようと決意する。翻訳もその一環と考え、子どもにすすめたい本を常に探している。

■わたしがくりかえし読む本
『イギリスはおいしい』

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●ここに出てくる本

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『こねこのぴっち』
●ハンス・フィッシャー/作
●石井桃子/訳
●岩波書店

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『イギリスはおいしい』
●林望
●平凡社