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灰島かり

第1回ノーベル文学賞を受賞したポーランドの作家シェンキヴィッチの作品を、児童向けに抄訳した本です。小学5年生のときに読んで、そのおもしろさにぶるぶる震えました。興奮のあまり足でカベを蹴り、何事か、と母がとんできたのを覚えています(もう1冊足が出た?本は『ベニスの商人』で、これも戯曲をノベライズした抄訳でした)。
大人の本を子ども向けに抄訳した本は、過去の(どちらかというと恥ずべき)遺産として語られることもあります。しかし私は、小学生時代には断固、大人っぽい本が好きだったのです。小学校の湿っぽい図書室で、手探りで本を探していたときに、よくわからないタイトルの本(『水滸伝』『湖上の美人』『源平盛衰記』などなど……)は、「当たり」が多いことを発見。『クマのプーさん』は子どもっぽく見えて、手が出ませんでした(私の名誉のためにお伝えすると、高校生になってから児童書に目覚め、『プーさん』は今でも愛読しています)。抄訳でも気合いの入った本であれば、小学生読者は物語に食らいついて、食べられるところだけを食べます(おいしいところを残していたことを大人になってから発見するのも、楽しみのひとつ)。
さて、『クオ・ヴァディス』はネロ皇帝の時代のローマを背景に、恋愛やキリスト教徒の迫害など波乱万丈の物語が繰りひろげられます。私にとっては強烈な異世界体験で、ほとんどハイファンタジーとして読んでいました。くり返し読んで、すみずみまで楽しみましたが、じつはそんな楽しさがないとやっていけないくらいに、小学校は居心地が悪いところだったのです。
この本以来、歴史、とりわけローマ帝国の歴史が好きになり、それは今でも変わりません。今回ふり返ってみて、この本がサトクリフの翻訳に直結しているなぁと、改めて思い知らされました。本当に、人はあまり変わらないんですね。

●灰島かり
小学校時代から本の虫で、いつも図書委員をつとめていた。「かり」はペンネームで、「ラング世界童話集」(こちらも長い愛読書)におさめられていたノルウェー民話の「木のきものを着たカリ」からもらったもの。青い牛といっしょに旅に出る勇敢なお姫さまのカリが、とてつもなく好きだったのです(本人がこわがりなので……)。訳書はローズマリー・サトクリフ作『ケルトの白馬』(筑摩文庫)、ロアルド・ダール作『へそまがり昔ばなし』、アンソニー・ブラウン作『びくびくビリー』(評論社)、ルーシー・カズンズ作『パックンおいしいむかしばなし』(岩崎書店)など。著書は『あいうえおのえほん』『ラブレターを書こう』(ともに玉川大学出版部)、『絵本翻訳教室へようこそ』(研究社)、『絵本をひらく』(人文書院)など。

■わたしがくりかえし読む本
橋本治作『窯変源氏物語』、田辺聖子の小説あれこれ

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●ここに出てくる本

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『クオ・ヴァディス』
〈世界名作全集76〉
●シェンキヴィッチ/作
●大木惇夫/訳
●大日本雄弁会講談社

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『むらさきいろの童話集』
〈ラング世界童話全集10〉
●アンドルー・ラング/編
●川端康成・野上彰/訳
●山中春雄/絵
●東京創元社

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『あかいろの童話集』
〈アンドルー・ラング世界童話全集2〉
●アンドルー・ラング/編
●西村醇子/監修
●ヘンリー・J・フォード/絵
●東京創元社

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『むらさきいろの童話集』
〈改訂版ラング世界童話全集10〉
●アンドルー・ラング/編著
●川端康成・野上彰/編訳
●上田英津子/絵
●偕成社文庫

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『窯変源氏物語』(全14巻)
●橋本治/著
●中央公論社
*写真は第2巻