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田中奈津子

小学生のころ、父の転勤で田舎にいて、図書館にも行ったことがなかった。東京の祖母が誕生日祝いに送ってくれる児童書が、数少ない愛読書だった。『小さい魔女』『小さなスプーンおばさん』『長くつ下のピッピ』などなど、そのころ出た本をデパートの店員さんに聞いて選んでくれたという。今でも読み継がれている名作ばかりだ。祖母のおかげで心の畑がずいぶん耕された。
中学校は東京の公立だったが、そこに素晴らしい学校図書館があった。渡り廊下の先にある独立した建物で、レースのカーテンが下がる窓からは花壇のある中庭が見えた。
本好きの友人と昼休みや放課後嬉々として通っていたが、ある時、『赤毛のアン』というよく聞く本をまだ読んでいないことに気がつき、手にとってみた。中学校の図書館で手にした『赤毛のアン』との出会いが、その後の私の人生を方向づけることになる。
鈴木義治さんの挿し絵のアンは本当にそこにいるようだった。やせっぽちでそばかすだらけで決して美人ではない。でも鼻先がツンととがっている。この鼻がアンの性格をよく表していた。好奇心旺盛、ロマンチックなことが大好き、失敗してもへこたれない、勉強もがんばって男の子に負けていない。私は読みながら完全にアンに同化していた。読み終わりたくなかった。図書館の本は講談社の本だったと思うが、自分で持っていたくて新潮文庫を全巻買って読んだ。その他のモンゴメリ作品も。
翻訳文学というものを意識させてくれた村岡花子さんは「尊敬する人」となり、英語が好きになるにつれて翻訳家という職業を目指すようになったのだ。


田中奈津子(たなか・なつこ)
東京生まれ。大学卒業後、翻訳学校で児童書翻訳家の掛川恭子先生に学ぶ(数年後、奇しくも掛川先生も『アン』の全巻訳を手掛けた)。先生の紹介で、翻訳書が出せるようになった。最新刊は『母さんが消えた夏』(講談社)。ねりま地域文庫読書サークル連絡会に所属し、絵本の読み聞かせやブックトークも楽しんでいる。

■わたしがくりかえし読む本
『本 人の縁とは不思議なもので』さだまさし
グレープ解散と同時に出た、氏の最初のエッセイ集で、その名も『本』。まだ23歳で髪がフサフサの氏が表紙にいる。『アン』のつぎに重要な出会いが「天才さだまさし」。日本語の美しさは彼の歌で学んだ。トークの面白さには定評があるが、この本では早くもその片鱗がうかがえる。当時文章を覚えるほど読んだ。

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●ここに出てくる本

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『赤毛のアン』
●L・モンゴメリー/作
●村岡花子/訳
●鈴木義治/絵
●講談社

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『赤毛のアン』
●モンゴメリ/作
●新潮文庫

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『赤毛のアン』
●L・M・モンゴメリー/作
●掛川恭子/訳
●講談社文庫

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『本 人の縁とは不思議なもので』
●さだまさし/作 
●八曜社

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『母さんが消えた夏』
●キャロライン・アダーソン/作
●田中奈津子/訳
●講談社