第22回



1.Daralan/『締め付けられる僕』
ヤングアダルトの作品で人気を博すミネ・ソイサルの作品。人目につかないところで忘れ去られている人々に焦点を当てた。アナトリアの小さな地方都市の貧しい地域に暮らす、一人の少年の目を通し、思春期の怒り、不安を描く。少年を取り巻く環境は決して明るいとは言えず、ギュンウシュウ出版の編集部は、「主人公にこれほど重くハードな状況を背負わせるのは、作者にとっても挑戦だった。同時に、そこで生きる人々を抱きしめるという、作者のいつもの現実的でありつつも愛にあふれた視線をどう表現するかという意欲作」と語っている。
中学生以上推奨。


© Günışığı Kitaplığı

メテは高校が始まる前の夏休み(注:トルコの学校は9月はじまり)を、家で過ごさなければならなくなった。障害者の姉アイシェの面倒を見る者が必要で、母は数日前に腰を痛め、その役割がメテに回ってきたからだ。それに加え、メテにしか聞こえない声で頭の中に話しかけてくる誰かをやり過ごすのにも、神経を使っていた。今朝も、「なんて夏だ! お前にはなんのいいこともないな! お前はどうするんだ、ええ?」という声をやり過ごした。姉は、「アイシェの玉座」と母が名付けた窓際の長いすに座り、ぼんやりと外を見ている。それがいつもの風景だった。
メテの家は裕福ではない。色々の不如意と姉の現状、それだけに止まらず、新しく越してきた隣人からのひどい騒音に悩まされている。しかし、初めて遭遇した家族内の暴力は、メテの短い人生を根底から揺さぶった。一方で、隣人の息子オメルは、問題から逃れるために嘘をつき、人の悪口もいとわない少年だった。彼との出会いもメテの悩みを増幅させる。
そんな中、論文を書くためにメテ一家を訪れた、心理学を学ぶ学生の叔母が、何もないメテの家に新たな風を吹きこんでくれた。彼女が話してくれることのほとんどは理解できないが、その瞳は常に希望を宿しており、メテは叔母に救われるような気持になる。
ミネ・ソイサルは本作で、トルコの地方都市の貧困家庭という世界を現実的に描いており、トルコの若者のある側面を非常に明確にとらえた作品として評価が高い。


2.Duvarda 3 Hafta /『壁の前の三週間』
『アヤソフィアはうたう』(2015)など、小学校中学年向けの作品を発表してきたフュスン・チェティネルの初めてのヤングアダルト作品。舞台をトルコとドイツに置き、初めて参加した夏のキャンプを経て成長してゆく、ひとりの少女の姿を描く。
中学生以上推奨。


© Günışığı Kitaplığı

メリサは、この夏、友人たちと行くはずだったロサンゼルスに行けなくなった。母さんが突然、仕事を解雇されたからだ。父さんは、メリサの私立高校の学費を払うために、精いっぱい働いている。だから無理を言えないことは分かっていた。
メリサの二人の友だち、ジェレンとムスラはとてもきれいだ。スタイルもいい、高校を卒業したらアメリカの大学に進学することも決まっている。メリサは、二人のようになりたいと思っている。「スパゲティなんて食べちゃダメ」「野菜と果物だけよ、食べていいのは」と二人に言われ、一生けん命ダイエットをしたけれど、彼女たちのようにはやせられない。必死に勉強をして、毎年奨学金をもらえるだけの成績は維持している。けれどメリサの家の経済状態を考えるに、アメリカの大学に行くには良い奨学金を勝ち取らなくてはいけない。
メリサは母さんのようにはなりたくなかった。高校を出て父さんと結婚して、銀行に勤めたけれど解雇されて、家事だけをこなす日々。父さんは操り人形師みたいだし、母さんはその人形だ。だから、メリサは絶対に結婚しないと決めている。イスタンブルを、トルコを出てアメリカに行きさえすれば、自分は自由になれると信じていた。なのに、母さんの解雇でつまづいてしまったのだ。
気持ちはロサンゼルスに残ったまま、メリサは夏休みの三週間をドイツのワークキャンプで過ごすことになった。散々、反対していやだと言ったけれど、結局、出発することになってしまった。シュトゥットガルトの小さな村についたメリサは、ウクライナ、スペイン、韓国などいろいろな国から来た同年代の仲間と出会うことになる。
ワークキャンプの目的は、古い石壁の修復だった。美しい芝生、新鮮な薪の香、すぐそこにあるように見える星空。作業の間、自然と向き合って過ごすキャンプはメリサに、異文化と生きることへの楽しみを新たに教えてくれる場所となった。




執筆者プロフィール


Mine Soysal
(ミネ・ソイサル)
イスタンブル生まれ。1981年、イスタンブル大学文学部古代アナトリア言語・文化学科を卒業。1994年まで、イスタンブル考古学博物館で発掘、研究、企画展示に携わる。
1996年、ギュンウシュウ出版を創立。『イスタンブルの物語』(2003)、『アラの行くところ』(2005)、『本なんて!』(2006)、『独りの部屋』(2009)、『9月の恋』(2001)、『遠く』(2014)などの作品を発表。いずれも人気作品で版を重ねている。
イスタンブルに暮らし、ギュンウシュウ出版の編集責任者として勤務を続けている。


Füsun Çetinel
(フュスン・チェティネル)
イスタンブル生まれ。オーストラリア高校を卒業後、ボアズィチ大学英語教育学科を修了する。教師として勤務するかたわら、イギリスで語学学校のスタッフとしても活動。イスタンブルのブルガズ島にあるサイト・ファーイク博物館で、児童・ヤングアダルトを対象とした物語のワークショップを開催する。また、トルコ国外の児童・ヤングアダルトのキャンプで社会問題のプロジェクトに参加する。
『アヤソフィアはうたう』(2015)、『秘密の道』(2016)で小学生向けの作品、『壁の前の三週間』(2017)でヤングアダルト作品を手掛ける。2018年には、再び小学生向けの作品『チコが選んだもの』を発表した。
家族とともにイスタンブルに暮らす。