第1回

──ギュンウシュウ出版をご紹介いただけますか?

ギュンウシュウは、児童からヤングアダルトの読者に向けて、トルコと世界の質のいい現代作品を届けることを目的に、1996年に創設されました。これまで、250冊以上の翻訳作品とトルコ作品を、3つのグループに分けて出版しています。3~6歳と7~8歳に細分化される児童向け、8~12歳向け、そして12歳以上のヤングアダルト向けです。15周年を迎えた際には、15歳以上の読者をターゲットとしたシリーズ「ON8」を創刊しました。トルコに読書習慣を浸透させるため、専門的な編集者たちが、全世代に読む楽しみを届けようと活動しています。
ヤングアダルト層により読書に親しんでもらうために、トルコ人作家の傑作を復刻した「架け橋」や、23冊を数える、哲学をわかりやすく紹介した『ポリポリ 哲学つまみ食い』など、さまざまなシリーズ化を試みています。また、新たな作家を発掘するとともに、挿絵画家、翻訳家、編集者、評論家が一丸となって、子どもたちのための本をより高めようと努力を続けています。
ギュンウシュウは、トルコ国内外の多くのブックフェアに参加し、作品を海外のさまざまな出版社に紹介しています。時間をかけてつくりあげたカタログを、トルコ国内で広く配布もしています。ギュンウシュウは、トルコの現代児童文学、ヤングアダルト文学をけん引する、プロフェッショナルな出版社であると自負しています。


イスタンブル・ブックフェアでのサイン会にて。ミネ・ソイサルは一人ひとりに声をかけながら、サインをしていく©Günışığı Kitaplığı

──ギュンウシュウのスタッフについて教えてください

出版する作品を選ぶ段階から譲歩はしません。世界的な視野で、何事も差別せず、柔軟性と肯定的な視線を忘れず、平和と希望を育てる作品を届けようと選別を重ねます。こうして、私たちの作品は、厳正に厳密に選ばれていくのです。
この作業を経て生まれた作品を、トルコ中の教育関係者や図書館司書に紹介するために精力的に動いています。営業部員のモチベーションは、編集部の働きと誇りを受けて、さらに高まるのです。この社内の関係は非常に重要ですよ。

──作品はどのように選ばれているのですか?

「ギュンウシュウ・スタンダード」ともいうべき、上質の作品を送り出してきました。このスタンダードを生むのは、年齢別の作品選定、種類の豊富さ、作品の厳選、編集者の意識の高さ、翻訳やデザインなどの各ポイントで非常に力のあるスタッフです。作品の選定では、報告書でテレビ番組がひとつできそうなくらい徹底的に読み込まれ、分析され、評価されます。編集委員会は、この間、異なる編集グループからの意見もとりまとめます。すべてに肯定マークが押されたら、編集委員会は再びありとあらゆる角度から作品を検討します。この徹底した作業を怠ることはありません。

──トルコの児童書をめぐる現状はどのようなものですか?

トルコでは、最近の10年で児童書とヤングアダルト向けの作品は飛躍的な進歩を見せました。ここで出版社が非常に大きな役割を果たしていることは、おわかりいただけると思います。
トルコ作家の作品が翻訳作品の数を上回るようになった今日では、出版社の責任はさらに大きくなりました。最近では、大手の総合出版社も、児童書に力を注いでいます。また、学習出版と文学的な児童出版の差異というものも認識されつつあります。これによって、作家、翻訳家、挿絵画家の数も増えているのです。
しかし、専門的な出版社、編集者とスタッフの育成には、さらに時間が必要でしょう。評論家層もまだまだ薄い。若い読者が、文学作品ではなく、その時々でポピュラーになっている本しか手にとらないという傾向もあります。教育、図書館サイドと連携して改善に努めなくてはなりません。まだまだ、時間はかかると思いますが……。

──上記の問題解決のためにどのような活動をされていますか?

ギュンウシュウは、この問題解決のためにずっと頭をひねってきました。2010年から、「ギュンウシュウ出版教育と文学セミナー」を開催しています。ここでは、教育関係、図書館司書のかたがた向けに、現代児童文学のおもしろさを子どもたちにどう伝えるかについて講演会を開いています。教育関係のかたは無料で参加していただけます。また、私たちの活動に興味をもった省庁が図書館関係者のために開く教育セミナーでは、開催の責任者としての役割もつとめています。
同じく2010年から始まった「ゼイネップ・ジェマリ文学記念日」は、トルコ国内で唯一の児童文学、ヤングアダルト文学専門の講演会です。2009年に亡くなった児童文学作家ゼイネップ・ジェマリの名を冠したこの講演会には、児童文学に携わる業界からいろいろな人が集合。今日の問題や、今後の展開について議論を重ねます。
ゼイネップ・ジェマリ文学賞は、子どもたちのために設定しました。トルコ国内の小学校高学年の子どもたちが、毎年発表されるテーマでお話を書くのです。このコンテストに送られてくる子どもたちの作品には、いつもワクワクさせられますよ。
ほかにも、多くの研究会、大学とのコラボレーション、ソーシャル・メディア、マスメディアも利用しつつ、活動を広げています。


読者の女の子たちと。思春期の少女の気持ちを繊細に描くミネ・ソイサルの作品は、女の子たちに人気。左端の女の子が手にしているのが、ミネ・ソイサルの最新作『独りの部屋』©Günışığı Kitaplığı

──今後、世界の文学市場にトルコの児童書を紹介していくためには何が必要でしょう?

すでに私たちがおこなっていることですが、トルコの出版各社は、まず、著作権の確保と、きちんとした形で作家を紹介できるカタログを用意することが大切です。デジタル上での広告もいいですが、国際ブックフェアに参加して、作品を売り込めるようになること。これが最重要でしょう。長く険しい道にはなるでしょうけれど、質のいい作品は必ず世界の市場で受け入れられると、私たちは信じています。
こうして、活動を続けてきた結果、ギュンウシュウの作品は、イタリア、ドイツ、スイス、ブルガリア、グルジアなどの国で出版されています。さらに他の国からもオファーをいただいていて、本当にうれしく思っています。

──その中から、ひとつ作品をご紹介いただけませんか?

やはり、ゼイネップ・ジェマリの『アンカラの秘密』(訳者注:アンカラはトルコ共和国の首都)でしょうか。2009年、作家の没後に刊行された彼女の最後の作品です。ギュンウシュウにとってはとても大切な作品。と同時に、ゼイネップ・ジェマリの優れた文学性を証明する1冊でもあります。
 要約すると、こんなお話です。

主人公は、環境保護論者で理想家の両親の元に生まれた少女ドアー。手入れをしている植物園で、ひとりの老婦人との出会いをきっかけに、秘密に満ちた家族の過去に興味をもちます。ドアーは、謎の輪をひとつずつつなぎ合わせていくうちに、1940年までさかのぼる曾祖父の秘密にたどり着きます。彼女が、ずっと不思議に思っていた父と叔父の不仲の理由を解明したとき、謎の「アンカラの人」の真実も明らかになるのです。

ジェマリは、ふつうの人のふつうでない物語を、子ども時代や青年時代特有のとまどいや足ぶみとともに描き出しています。読者を、果樹園、花の温室、自然に囲まれたある家族の物語に引き込みます。現実主義者でありながら、悲観的ではなく、傷ついた人々に寄り添う作家がジェマリです。彼女は、差別、偏見、伝統、風習、教育の権利、女性の社会的地位など、今日のトルコで重要な問題と正面から向き合っています。
2年間で4回重版され、2011年に賞を受けたこの作品を、小学校高学年以上の読者におすすめします。それから、20回の重版となった、ジェマリの『はちみつクッキー・カフェテリア』(2005年の発売です)が昨年、イタリア語で出版されたことも付け加えさせてください。

──日本の出版関係者と子どもたちに、メッセージをお願いします

ギュンウシュウの作品は、主題や文章の質、魅力的なキャラクター、構成で、日本の子どもたち、ヤングアダルトたちにも、必ず楽しんで読んでいただけます。世界的なテーマと視点に加えて、アジアに共通の感情や文化が読みとれるので、日本とは近しいものを感じていただけるはずです。それは、ギュンウシュウでも人気作家のベフチ・アクの作品が何冊も日本語に翻訳されていることからも、おわかりいただけることと思います。
今日のテクノロジーの発展により、読書離れがいわれていますね。それでも、老若男女問わず、いい作品には必ず手を伸ばしてくれるものと信じています。読者が手にとってくれること、それが私たちの何よりの喜びです。その喜びをしっかり抱きしめたいくらい。世界の人が本を手にとり、与えてくれる喜びは宝物です。そして、日本の出版各社様、読者のみなさんが、私たちの本を愛し、私たちに喜びを送ってくださると信じています。

──ギュンウシュウが子どもの本をつくり続けるのは、その喜びのためなのですね

そうです。そして、それ以上に子ども時代に読書の楽しみを知るのは、非常に重要なことですよね。残念ながらトルコでは、未だ読書習慣というものが浸透していません。人生の最も早い段階で、興味を本に向けるようにすべきです。子どもの読者は、最も気難しく容赦ない評論家です。彼らが手にする本は、質がよく、知りたいという気持ちをかき立てる、生き生きしたものでなくては。
子どもの本は真剣に選ばれなくてはならないこと、出版社は一般書と同等以上の作業のもとに作品を送り出さなくてはならないことを、ギュンウシュウはいい続けてきました。子ども時代に知った読書の楽しみは、何物にも代えがたいということを、私たち自身がよく知っているのですから。

──お忙しいところを、どうもありがとうございました

こちらこそ。日本の出版業界の皆さまが、私たちが丹精込めてつくりあげた本を皆さまの読者の方々に新たなジャンルとしてご紹介していただけることを、切に願っています。




Mine SOYSAL(ミネ・ソイサル)

作家、考古学者。ギュンウシュウ出版社編集責任者。イスタンブル生まれのミネ・ソイサルは、イスタンブル大学文学部古代近東言語文化学科を1981年に卒業した。1994年、イスタンブル考古学博物館で研究員として勤務、展示会の企画、発掘に携わる。1996年、ギュンウシュウ出版を創立。数々の重要な児童文学作品の編集者として活動する。自身の著作としては『色とりどりの子どもたち』『イスタンブルの物語』など。また、4万人以上の学生たちとの対談プログラムなども実現させている。同時に『本なんて!』では、読書の楽しみを小説化した。ヤングアダルト向けの『9月の恋』、最新作の『独りの部屋』では、現代トルコの若者たちが抱えるものを、等身大で描き出している。

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Zeynep CEMALİ(ゼイネップ・ジェマリ)
1950年イスタンブル生まれ。1999年にギュンウシュウ出版から刊行された『私とプラタナス、そして風船菓子』、2000年の『バラ通りのとげ』を皮切りに物語やヤングアダルト小説を発表してきた。『ローラーブレードガール』、イタリア語に翻訳された『はちみつクッキー・カフェテリア』などの小説、『とんでもないパパ』、『物語を渡る猫』など、物語でも才能を発揮。あらゆる年代の子どもたちに向けた作品がある。
2009年11月、イスタンブルで死去。最後の作品となった『アンカラの秘密』は、2010年に刊行された。この作品は翌2011年のトゥルカン・サイラン賞の芸術賞を受賞した。また、同年、子どもたちの物語コンクール、ゼイネップ・ジェマリ文学賞が始まる。また、トルコ国内で唯一の、児童文学、ヤングアダルト文学専門の講演会「ゼイネップ・ジェマリ文学記念日」も設定された。
彼女の作品の根幹には、共にアナトリアの各地を旅した父の言葉、「生きることは、学ぶことだ」があるとされる。