第9回
2015年11月7日~15日、イスタンブルのヨーロッパサイドのコンベンションセンター「Tüyap(トゥヤップ)」で、イスタンブル国際ブックフェアーが開催された。来場者数は55万8000人で、前年を約11パーセント上回った。
今年もギュンウシュウ出版のブースを訪ね、ハンデ・デミルタシュさんから2015年の作品についてお話をうかがった。国外のブックフェアーをかけまわり、さまざまなワークショップに参加してきたというハンデさんは、少々のどを痛めて風邪気味ということだったが、それでも精力的にいろいろとお話をしてくださった。今年は、ギュンウシュウ出版の創立20年にあたり、記念のバッチもつくったそうで、筆者もひとついただいた。
©Peter H. Reynolds © Günışığı Kitaplığı
ハンデさんが「ぜひとも、日本の皆さんに紹介したい」と語る新作を、ON8文庫の作品もふくめて3回にわけて報告したい。
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1 Ayasofya Konuştu(『アヤソフィアはうたう』)
Füsun ÇETİNEL(フュスン・チェティネル)の最初の児童文学作品。小学校中学年以上。
子どもたちに向けて物語のワークショップを開催しているチェティネルは、作品の舞台にアヤソフィアを選んだ。イスタンブルの中心ともいえるアヤソフィアは、ローマ帝国時代の350年ごろにコンスタンティウス二世によって建設が始まり、360年2月に竣工したのが始まり。
©ikuko suzuki
建設当初はキリスト教の教会で、正教会第一の格式を誇るコンスタンティノープル総主教座(コンスタンディヌーポリ総主教庁)の所在地だったが、1453年のオスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落後は、イスラム教寺院ジャーミー(モスク)となった。トルコ共和国成立後は1935年から博物館として一般に公開されている。
©ikuko suzuki
貧しい一家に生まれた少年ヴェリは、学校ではうまくいかないことばかり。だが、そのつらさを、大好きなアヤソフィアに行き、ドイツ人考古学者のマーサと話すことで埋めていた。学校に友人はいないが、マーサは小さなヴェリのいい友人になってくれた。
ある日、学校で、課題で優秀な成績をおさめるとドイツに行くことができると発表された。それを聞いたヴェリはアヤソフィアについて研究をし、それを提出してドイツに行こうと決意する。
© Günışığı Kitaplığı
長い歴史を経て、いまださまざまな秘密を抱えているアヤソフィアを探るロマンが、貧しい少年をとりまく現実を彩っていくさまを描く。挿絵は、その実力が評価されているSadi GÜRAN(サディ・ギュラン)。
2 Umut Sokağı Çocukları(『きぼう通りの子どもたち』)
昨今の中東事情により世界的にも注視されるようになったシリア難民の姿を描く、Gülsevin KIRAL(ギュルセヴィン・クラル)の作品。小学校中学年以上。
オメル・ヘプチョゼル探偵事務所シリーズを手がけるクラルが、時事問題を扱った作品に挑んだ。上の作品に続き、Sadi GÜRAN(サディ・ギュラン)が挿絵を担当した。
© Günışığı Kitaplığı
アリは、友人のセロとユスフといっしょにサッカーをしているときに、近所の小さなホテルの窓をボールで割ってしまう。そのボールを投げ返してくれた少年ハサンは、内戦が続くシリアから一家で避難してきたシリア難民だった。ハサンの父は、イスタンブルでなんとか仕事を見つけようとしている。また別のシリア難民ベリヴァンは、別れてしまった妹エジェにまた生きて会えるという希望を捨てずにいる。アリたちのサッカーチームは、ハサンのおかげで勝利する。そしてアリは、ベリヴァンの娘ロジダに恋心を抱いていた。
小さな地区の人々と、そこにやってきたシリア難民それぞれの目線で物語がつづられる。移民問題は、トルコも無視のできない非常に大きな問題となっているが、クラルはイスタンブルのこの小さな地区では未来への希望を込めて物語を閉じている。
3 Benim Babam Ömür Adam(『すてきなぼくの父さん』)
現在も小学校の教師として勤務を続けているÖmer AÇIK(オメル・アチュック)の2冊目となる作品。小学校中学年以上。1作目のMenekşe İstasyonu(『三色すみれの咲く駅』2015年 ギュンウシュウ)では、小さな村の駅が舞台になった。本作では、パン屋の父と夢見がちな息子を描く。
© Günışığı Kitaplığı
フィコは空想が大好きで、そのおかげで忘れっぽく集中力に欠ける少年。学校帰りなどにいろいろ空想しては、本当のことであるかのように話して、よく両親をあきれさせる。学校で使う鉛筆もしょっちゅうなくしてしまうし、宿題も忘れる。
夏休みが近づいたある日、フィコは父さんのオミュル氏に新しい自転車を買ってほしいとたのんだ。だがオミュル氏は、こんなにあちこちに忘れものをするフィコに自転車を買っても、すぐになくしてしまうだろうといって許してくれない。悲しむフィコにオミュル氏がある条件を出した。夏休みまであと2週間。その間、オミュル氏がわたす紫のリボンをけっしてなくしてはならない。いつも持っていて、オミュル氏がいえばすぐに見せること。それを2週間やりおおせたら、もう大きくなったと認めて自転車を買ってくれるという。フィコは勢いこんで、その条件を飲んだ。
いつも教室で子どもたちの頭に浮かんだおもしろいお話を聞いているというアチュックが、非常に読みやすいトルコ語で書いた作品。