第19回
セヴギ・サイグが2017年から発表してきた、「ジャスミンとラベンダー」のシリーズ。全四冊。小学校低学年以上推奨。
小学生の女の子ジャスミンと、おばあちゃんが作ってくれた布人形ラベンダー、そして、いつも片目が取れかけの猫のぬいぐるみムギュの冒険を描く、フルカラーの児童向け作品。挿絵は、イラストレーターのメルヴェ・アトゥルゲンが担当した。
トルコの小学校低学年の女の子の間で人気となっており、三冊目、四冊目は冒険色が濃くなり、男の子たちにも人気が出てきたという。
1.Yasemin ve Lavanta/『ジャスミンとラベンダー』
冬休み、ジャスミンはお父さん、お母さんといっしょに、おじいちゃんとおばあちゃんの家に泊まりに行くことになった。おじいちゃんの家の庭はとても楽しい。それに、真っ白な毛をした犬のフワフワといたずらをするのも楽しみだ。
© Günışığı Kitaplığı
ジャスミンの大事な友だち、片目が取れかけた猫のぬいぐるみムギュも、もちろん一緒に行く。お母さんは「もう大きな女の子になったんだから、置いていきなさい!」と言うけれど、ジャスミンは、学校に連れて行けない分、どこへでも一緒に行くとムギュに約束した。だから、絶対に離さない。それなのに、長距離バスの途中で熱を出したジャスミンは、最後のパーキングエリアにムギュを忘れてきてしまった。
ムギュがいないこともあり、おじいちゃんの家に来てもジャスミンの病気は治らない。ギュムシュおばあちゃんは、そんなジャスミンのために、布の人形ラベンダーを作ってくれた。ジャスミンの古い服を来たラベンダーの中には、良い香りのするラベンダーの花がたくさん入っている。
ある晩、眠っているジャスミンを起こす声がする。それは、人形のラベンダーだった。二人は庭に飛び出して遊ぶ。それから毎晩、ジャスミンが眠るとラベンダーは目を覚まし、犬のフワフワも一緒にあちこちへ冒険に出かけることになる。
2.Çizmeli Gıcır /『長ぐつをはいたぬいぐるみのネコ』
ジャスミンは、大の仲良しのシューレが重い病気で長いこと学校を休むと知った。せっかく映画に行く約束をしていたのに。仕方がないのでお母さんと観に行った。「長靴をはいた猫」のお話だったけれど、ジャスミンはどうにも猫が気に入らない。「あんなにたくさん、うそをついてもいいものかしら?」とラベンダーに言う。
© Günışığı Kitaplığı
ところがその晩、ジャスミンとラベンダーを起こしたのは、猫のぬいぐるみムギュだった。長ぐつをはき、羽のついた帽子までかぶっている。びっくりするジャスミンとラベンダーに「偉大なる、ひいひいひいひいひいおじいさんの長ぐつをはいた猫から数えて、515代目の子孫、ムギュがごあいさつもうしあげます!」と自己紹介をした。そして、夜が明けないうちに冒険に出ようと言う。冒険の入り口は、台所の冷蔵庫だった。
冷蔵庫のドアは不思議な色の森へと続いていた。しかし、ムギュの忠告を聞かなかったジャスミンとラベンダーは、ムギュとはぐれ、先にいつもの世界に戻ってしまう。そこにムギュはいなかった。ふたりは再び冷蔵庫の中へムギュを捜しに行く。そこでシューレをつかまえている病気の元を見つける。
3.Amazon Kaptan /『キャプテン・アマゾネス』
毎年、ジャスミンは家族や親せきと、海辺にテントを張ってキャンプをする。ジャスミンはこのキャンプが大好きだ。親せきの子どもたちがたくさんやってくるので、一緒に遊ぶことができるから。
© Günışığı Kitaplığı
ところが、楽しみにしていた今年のキャンプは全然ようすが違っていた。従兄弟の男の子たちが大きくなり、いたずらばかりするのだ。女の子たちをひどくからかっては怒らせてばかりいる。だから、ジャスミンたち女の子は、男の子と離れて遊ぶことにした。ラベンダーを捕らわれのお姫様役にして、砂のお城を作り、人形劇をするつもりだったのに、完成直前だった砂の色は男の子たちに壊されてしまった。
すっかり怒ってしまったジャスミンたちは、男の子に仕返ししようと考える。そんなある晩、いつもの夜の冒険の中で、ジャスミンは伝説の女戦士だけの民族アマゾネスと出会う。
4.Cankurtaran Kibele/『超特急のガレー船』
『キャプテン・アマゾネス』の続編となる、「ジャスミンとラベンダー」の最終巻。
© Günışığı Kitaplığı
夏休み、親せきが集まる海辺のキャンプは楽しく続いていた。でも、男の子たちのいたずらも続いていた。
ある日、古代遺跡の見学に出かけることになった。みんなとても楽しい気分でいたのに、男の子たちのいたずらと、突然降り出した雨のせいで最悪なものになってしまった。それに、古代遺跡でちょっとした事故も起きた。
ジャスミンは、古代のガレー船キベレの前で、この船が大好きだという少女シミルナと出会う。雷が鳴ると、シミルナの思いにこたえるように、二人の前にキベレが姿を現したのだ。
この作品の原題は『救急船キベレ』という。キベレは、トルコの考古学者、歴史学者、海洋学者、技術者で作る「歴史360度検証協会(360 Derece Tarih Araştırmaları Derneği)」によって復元された、紀元前6世紀のガレー船。当時の技術を用いて復元され、トルコのフォチャからフランスのマルセイユまでの航海に成功した。また、「キベレ」は、キュベレーの別名で、古代フリギア(古代アナトリア/現在のトルコに紀元前12世紀ころ起きた王国)で崇拝されていた大地母神のこと。古代ギリシャ、古代ローマにも信仰が広がった。
トルコはギリシャ神話にもたびたび登場するような古代王国が次々と起きた土地で、セヴギ・サイグは、シリーズの最後に、そういった古代文明や神話を取り入れた。