第21回
1.Belalı Dörtlü’ye Karşı/『こまった四人をやっつけろ』
「オメル・ヘップチョゼル探偵社」シリーズで人気の、ギュルセヴィン・クラルの作品。ある小学校のクラスの子どもたちが、傍若無人にふるまう四人組のクラスメートに立ち向かうようすを、ユーモアを交えて描く。小学校中学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
チャイムが鳴り、エゲは帰宅のスクールバスのいい席を取ろうと慌てて帰りじたくを始めた。ところが先生は、「みなさん、少し待って」と言う。また宿題か! エゲがうんざりしていると、先生はこう言った。「今夜はスーパームーンです。いつもより月が大きく輝いて見えます。ぜひ、観察すること。明日、みなさんが見たスーパームーンについて話を聞きますよ」。そんな宿題なら、もってこいだ。エゲは、少し前にインターネットでみつけた、工作でできる望遠鏡を作って月を見るつもりだ。帰りのバスで隣に座った友だちのデフネを誘い、一緒に望遠鏡を組み立てて、月を見ることにした。
次の日、自分で作った望遠鏡をクラスのみんなに見せようと、エゲは張り切っていた。転校生で、まだクラスになじめていなかったジェイランも、望遠鏡のおかげでみんなとうちとける。ところが、クラスの厄介者の四人組がいつものとおりに好き勝手を始める。望遠鏡の楽しみをめちゃくちゃにし、ジェイランの前歯をからかって、机にニンジンを置き、その上、宿題はいっさいやらずに、誰かのものを無理矢理写すようになった。あまりにやりたい放題で、みんなはついに腹を立てる。そのとき、エゲがいい案を思いついた。
ギュルセヴィン・クラルは、子どもたちにとって、学校、教室とは、その時代の彼らが生きる社会そのものであり、この先の人生の下稽古であると考える。子どもたちの純粋さを前面に出しながら、どうやって彼らが仲間内の問題を解決していくのかを、重苦しくなく明るく描く。
2.Bulut Delisu /『雲に夢中』
『コウノトリ飛んだ』(2012)、『空想の好きな女の子』(2014)に続く、レイラ・ルハン・オクヤイの三作目。前の二作同様に、空想の世界を愛する少女が主人公となっている。小学校中学年以上推奨。
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チャーラは、空に浮かぶ雲が大好き。小さいころ、お母さんといっしょに歩くときはいつも、「雲の形当て」をして遊んだ。お母さんは、この遊びをお母さんのお母さん、チャーラのおばあちゃんから教えてもらったそうだ。お母さんも子どものころは雲が大好きで、しょっちゅう転んだり穴に落ちたり。膝にはケガが絶えなかった。今のチャーラと同じように。
夢の中でも雲に夢中だ。友だちのエスマやケレムと一緒に、田舎の果樹園でスイカをおなかいっぱい食べて、干し草の上に寝転がると、空を行く雲が列車になる。みんなそろってその列車に乗ると、虹のゲートをくぐり、雲の間を抜けていくのだ。
ある日、チャーラの学校で、トルコの北東部のはじっこ、アルメニアとの国境の町カルスに修学旅行が決まった。クラス中が、興奮でわき立った。だって、列車と飛行機に乗れる! でもクラスメートのアザドが修学旅行に参加できないと知り、みんながっかりする。ところが、学校の作文コンクールの優秀者には、賞品として、カルス旅行がプレゼントされることになった。チャーラを始め仲間たちは、アザドが優秀賞に選ばれることに望みをかける。
作中で、子どもたちがカルスに行くために乗るのは、イスタンブルとカルス間を40時間近くかけて走る寝台特急Doğu Ekspresi(ドーウ・エクスプレス/東部特急)。イスタンブルは、ボスポラス海峡によって町が分けられているので、トルコの東部へ向かう列車は全て、アジアサイドのカドゥキョイにあるハイダルパシャ駅を発着していた。アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』でシリアから戻ったエルキュール・ポアロがイスタンブルに最初に降り立ったのがこの駅。新潮文庫版(1960)では「ハイダパッサ駅」となっている。
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1908年、オスマン帝国終末期にアナトリア鉄道やバグダード鉄道の始発ターミナル駅として、営業を開始した
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正面から撮るが、大きくてカメラに入りきらない。二人のドイツ人建築家によって建設された
2010年、駅舎の修復作業中に出火し、四階と天井の大部分が焼失した。修復が続いており、現在は閉鎖されているが、2018年の年末に再び駅舎として営業を始めるという情報もある。
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この先にホームがあった。かなり無機質なものだったので、修復後は、駅舎に見合ったホームを付ける、という計画があるらしい
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切符の窓口と待合室。電光掲示板などをのぞけば、当時の雰囲気のまま
ここに紹介した写真は全て、火災以前に撮影したもの。重厚な開業当時の雰囲気を残す駅舎で、ここから列車に乗る子どもたちがはしゃぐのもうなずける。