第24回
2018年11月10日~18日にかけて開催された、イスタンブル・ブックフェアーを今年も訪れた。
© suzuki ikuko
ブックフェア会場の入り口。向かって左側から入場料(8トルコリラ。値上がりしていた)を払って入り、右奥に並んだ扉から各ホールへ
37回目を数えるブックフェアーは、公式発表によれば、会期中の来場者は61万1444人だった。2017年の来場者数には届かなかったが、最終日の混雑は大変なものであったらしい。筆者は初日に訪れたので、例年通りの混み具合と感じたが、トルコの国内新聞による最終日11月18日の報道によれば、最寄り駅から会場まで長蛇の列ができたとのこと。ちょっとした道路幅くらいはある歩道橋に来場者がみっしり詰まった写真が掲載されていた。
その歩道橋から遠景の写真を撮った。初日は、こんなことができるくらいには余裕があった。
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歩道橋から。写真右、薄茶色の平たい建物が会場のTÜYAP。一見狭そうだが、どこまでも奥が広い
© suzuki ikuko
歩道橋から。会場は空港よりもさらに先で、都内から幕張メッセなどに行く感覚に似ているかもしれない。海はマルマラ海
またフェアー初日の11月10日は、トルコ建国の父ムスタファ・ケマル・アタテュルクの命日で、彼が亡くなった9時5分にはトルコ全土で2分間の黙とうがささげられる。同行していただいたFさんと乗り換えのメトロの駅を降りたところで、時間を知らせるサイレンが鳴り、我々も周囲のトルコの人々にならって、その場で立ち止まった。タクシー運転手も車から降り、乗用車もバスも停止し、聞こえるのはサイレンの音だけだった。
ギュンウシュウ出版のハンデ・デミルタシュさんは、お元気だった。毎年この時期にお目にかかると、前に参加した各ブックフェアーの疲れからか、のどをいためたり、風邪をひいたりで咳をしていることが多いのだが、今年は張りのある元気なお声。残念ながらトルコからギリシャ開催に変更になってしまったIBBY国際大会にも参加し、有意義だったと語ってくれた。
以下、2018年のギュンウシュウ出版の新刊を紹介する。
1.Her Şeyi Yanlış Anlayan Kedi /『なんでもかんでもまちがえる猫』
ベヒチ・アクの色シリーズ最新作。表紙と挿絵は青を基調としている。これまでの作品では子どもたちが主人公だったが、本作品の主人公は猫のナズル。それをとりまく、飼い主オクタイ少年の一家の話となる。
小学校中学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
オクタイの家に飼われている猫のナズルは、世界は自分を中心に回っていると思っている。風だってナズルのために吹いているのだ。冬が来るのは、ナズルがストーブにくっついて気持ちよく居眠りをするため。春の花はナズルの鼻に良い香りを届けるために開く。オクタイの一家はナズルに仕える召使いだ。
「人間って、なんて気がきいてるのかしらね! こんな忠実な家族をわたしに用意してくれるなんて」。テレビの前に陣取っては、ごきげんでしっぽを揺らす毎日。
ところが、ナズルの考えと、家族の考えは、いつもどこかで食い違っている。例えば、お母さんのベルマ夫人がキャベツの詰め物を作ったとき。家にこもったにおいを飛ばすために窓を開けたら、ナズルは、外にいたカナリヤをつかまえていいの合図だと思って、思い切りジャンプをした。例えば、家に赤い金魚が来たとき。家族が全員留守のある日、ナズルは金魚を食べてしまった。なぜ家族が留守にしていたか? 女王ナズル様が、ゆっくり食事をできるように!
オクタイ少年は、ナズルの考えがどうやら毎回間違っていることに気がつきつつあるが、ナズルはそんなこと全然おかまいなしに、自分中心の世界にいる。
ある日、建築家のお父さんオンデル氏が、地方の小さな村に作る動物園の設計をまかされることになり、一家は都会からその小さな村へと引っ越すことになった。
ナズルは引っ越しがいやだったが、着いてみると真っ白に塗られた大きな家で庭もある。ところが、暖房器具は薪ストーブしかないという。そして、ナズルはオクタイ少年のために悲しんだ。「かわいそうなオクタイちゃん。広い部屋なんてほしくないのよね。せまい部屋で壁にボールを当てて遊ぶのが好きだったのに」
ときに猫が(猫にしかわからない言葉で)しゃべり、猫の立場になって物語が展開する。大の猫好きで知られる作家ベヒチ・アクならではの、ユーモアに満ちた作品。