第26回

1.Düz Çizgi Tepetaklak /『まっすぐ線がとんぼがえり』
『ラタ・シバ』(2013)で、独自の世界観を確立したイレム・ウシャルの作品。人が引いたまっすぐな線があるなら、自然の中にもまっすぐな線があるのだろうかと考える、「直線にうんざりした」少女の物語。ハンデ・デミルタシュさんは、「小さな扉ですが、子どもたちに哲学の世界を開いてくれる作品です」と解説する。

小学校中学年以上推奨。挿し絵は、『石炭色の少年』(2014)など、ギュンウシュウ出版の作品を多く手掛けている、フバン・コルマン。


© Günışığı Kitaplığı

リナの父さんは「まっすぐに線を引く人」だ。どんなに曲がりくねった道でも、でこぼこの土地でも問題にしないで、きれいに直線を引くことができる。おじいちゃんから引き継いだ能力でもって、大都会や町の道路、飛行場などで必要な形にまっすぐ線を引く。だから、世界中から引っぱりだこで、あちこちの国に行っては、交通をスムーズにしている。世界はリナの父さんがいないと大変なことになる。

まっすぐの線が大好きな父さんは、家でもまっすぐな線に囲まれている。リナたちが住む家は、黄色と白のまっすぐな線のしま模様で、父さんは絶対にまっすぐなストライプのシャツを着ている。庭にだって、まっすぐのコンクリートの道を作ってしまった。

もっと悪いことに、娘のリナもまっすぐに線を引くのが上手で好きに決まっている、と思い込んでいる。リナ本人はといえば、小学校の最初の授業で、アルファベットのまっすぐな線を引くのすら我慢できないし、線を引くのが好きでもない。それなのに父さんは、リナには線を引く才能があると決めつけ、町で偶然出会った父さんの友だちは、リナが線を書くのを見て、父さんの能力は受け継いでいないと言う。
リナは、直線にはうんざりだった。どうしようもなくイライラしたら、庭師の孫・アーデムのところに遊びに行く。庭の片隅には、プラタナスの木が揺れ、色々な植物が生える場所がまだ残っている。リナの大好きな場所だ。


© suzuki ikuko
イスタンブルの新市街に建つガラタ塔から。建物の並びからわかるように、周囲はビザンツ帝国時代から開かれていたので、かなり入り組んだ細い道が広がる。現在のイスタンブルは、道路が整備され、リナの父さんが書いたように車線が引かれているが、二車線の道路で頻繁に「なんとなく三車線、四車線」に並んで車が走っていたりするため、気が抜けない。


ある日、学校の書き方の授業でまで、アルファベットをきれいな直線で書くよう言われ、リナのは、もうがまんできなくなった。アーデムと一緒に、人工ではなく、自然の中に元からある直線を探しに出かけることにした。

「自然は直線を嫌う」という有名な言葉があるが、普段、人間はそれを意識はしない。子どもたちに、「そういえば、直線てなんだろう?」という考えをもたらす一冊。


2.Çiko’nun Seçimi /『チコがえらんだこと』
フュスン・チェティネルが、子どもでいられる最後の時間を過ごそうとしている親友二人が抱く夢と、夢見た世界の現実を描く。同時に、動物たちの生きる権利についても触れる。

小学校高学年以上推奨。

挿し絵は、「現実とファンタジーが融合したリアリズム」と評される、新進のイラストレーター、マリア・ブルゾゾヴスカが手がけた。



© Günışığı Kitaplığı


セレンは、夏の入り口の6月が好きだ。学校が終わって、夏休みになって、親友のジェモと好きなだけ遊べるし、アイスクリームもうんとおいしくなる。それに誕生日が来る。今年は、もっと素敵なことが重なった。毎年、街にやってくるイタリアのサーカスが、6月に公演をするのだ。でも、動物を使ったサーカスに対する批判が、日に日に大きくなっていて、このサーカスを見られるのも最後かもしれないと、セレンは思っていた。

でも、この6月には父さんが帰ってくる。セレンの父さんは、大きな国際線の船長で、セレンは「ジャック・スパロウ」と呼んでいる。あの有名な海賊映画の主人公にそっくりだから。

スパロウ船長は、いつもセレンにお土産を持ってきてくれる。今回もセレンは楽しみにしていた。元気よく騒がしく家に帰ってきた父さんは「タ、ターン!」と言いながら、カバンを開けた。すると中からダークチョコレート色の小さな犬が一匹飛び出してきたのだ。父さんは、イタリアの街角で、一匹でさまよっていた犬を見つけた。飼い主も見つからなかったので、かわいそうに思い連れてきたのだと説明した。母さんの反対を押し切って、父さんがチコと名付けた犬は、家族の一員となった。

セレンは、ずっとサーカスに入りたくてたまらない。夏休みになったので、ジェモを誘ってサーカスごっこをすることにした。するとチコは誰も教えないのに、見事な芸を披露してみせた。セレンとジェモは、チコはどうしてこんなことができるのだろうと不思議に思うようになる。

サーカス団で芸を見せる動物たちの生活、動物が自ら共に生きる人間を選ぶという行為など、楽しいサーカスからも考えることはたくさんある、と作者は訴えていると、ハンデさんは言う。子どもたちが、夢と現実をすり合わせていく姿を描く作品でもある。




執筆者プロフィール

İrem UŞAR
(イレム・ウシャル)
1975年、イスタンブル生まれ。マルマラ大学ラジオ・テレビ・映画学科を卒業。特派員、編集者、コラムニストとして活動する。2010年、国際ペンクラブの招待でベルギーのアントワープで開催されたワークショップに参加する。そこで、トルコのチャナッカレに建つ、スィヴリジェ灯台を舞台にした最初の児童向け作品『とうだいのひかり』(2011)を発表する。同年に刊行された『あの子と遊園地家族』は、児童・ヤングアダルト出版協会の、「その年の一冊」の審査員特別賞を受賞した。2013年の『ラタ・シバ』で、児童向けの物語作品に挑戦した。
イスタンブル在住。


Füsun ÇETİNEL
(フュスン・チェティネル)
イスタンブル生まれ。オーストリア高校を卒業後、ボアズィチ大学英語教育学科を修了する。教師として勤務するかたわら、イギリスで語学学校のスタッフとしても活動。イスタンブルのブルガズ島にあるサイト・ファーイク博物館で、児童・ヤングアダルトのお話のワークショップを開催する。トルコ国内外のワークショップにおいて、若者と社会問題に関するプロジェクトを企画する。著作に 『アヤソフィアはうたう』(2015)、『秘密の道』(2016)、『壁の前の三週間』(2017)。
夫、娘と共にイスタンブルに暮らす。

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Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)
1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。