第28回

1.Taşkafa /『たしかな人』
世代間のつながりをテーマに作品を発表しているオメル・アチュックが、祖父と孫娘の交流を描く。孫娘イディルは、ある日、なかよしの友人2人と家族の秘密を追うことになる。


小学校中学年以上推奨。



© Günışığı Kitaplığı


イディルが好きなものは三つ。飛行機を眺めること、知らない単語を集めること、そして料理上手のおじいちゃんの朝ごはんを食べること。


冬の間、おじいちゃんは、イスタンブルにあるイディルの家に住んでいる。おじいちゃんの暮らす田舎は、冬になると電気も来ないような寒いところだからだ。早起きのおじいちゃんは、毎朝、学校に行くイディルを6時半に起こし、朝ごはんを作ってくれる。好き嫌いが多くて、父さんと母さんを悩みに悩ませたイディルだが、おじいちゃんの料理は大好きだ。絶対に文句なんか言わないで、ぜんぶたいらげる。「世界で一番おいしい朝ごはんだって、知ってるもの」と思いながら。


ある朝、おじいちゃんは、いつもどおり6時半にイディルを起こした。イディルは学校に行きたくなかった。風邪をひきそうな気がする。鼻水も出ているし。そうおじいちゃんに訴えたら、「熱なんかないじゃないか」と言われた。おじいちゃんにとっては、風邪っていうのは熱が出なくちゃダメなんだ、とイディルはあきらめた。でも、おいしい朝ごはんを前にしたら、やっぱり食欲がわいてくる。おじいちゃんは、絶対に脱ぐことのない耳あてつきの変な帽子を、今朝もかぶっている。その帽子のままミルクを注いでくれた。イディルはおじいちゃんと「かんぱい」のポーズをとると、朝ごはんに取りかかった。


学校の帰り道、親友のベヒジェとナーズムと一緒に、空を滑っていく飛行機を眺めて楽しんだ。でも、宿題のためにホコリまみれの棚から、イディルが家族のアルバムを探し出したことで、家の中のバランスが狂い始める。イディルは家族の秘密を調べるうちに、おじいちゃんが別の名前で呼ばれていたことを知る。


軽妙な語り口で子どもたちを楽しませながら、思い込みや頑固さを解きほぐしてくれる作品だと、ハンデさんは紹介してくれた。



2.Gökçe’nin Yolu/『ギョクチェの道』
「ON8(オンセキズ)」文庫を中心に、ヤングアダルト作品を発表しているアフメット・ビュケの、初めての「架け橋」文庫の作品。森の中で、自分が自然の一部なのだと感じることによって成長してゆく、少女ギョクチェの姿と、彼女を導く一人の女性の姿を描く。


小学校高学年以上推奨。


© Günışığı Kitaplığı


ギョクチェの父さんと母さんのようすがずっとおかしい。話もしなければ、目も交わさない。まるでお互いがそこにいないみたいだ。ギョクチェは、森の中を進むオンラインゲームに逃げこむことにした。そこにいれば息ができたのに、母さんは、ギョクチェを自分の故郷の村のマヤおばさんの家に送るという。電気もないというその村に、ギョクチェは夏休みの間、滞在することになった。


バスに揺られて森の中の停留所についてみると、迎えに来ているはずだったマヤおばさんの姿はなく、人も通らない。偶然通りかかった盲目の老人と羊飼いの少年に助けられ、ギョクチェはマヤおばさんの家に着くことができた。おばさんに会ったら、迎えに来なかった文句のひとつも言おうと思っていたのに、ギョクチェはあまりに疲れて何も言えなかった。大きなひとつの部屋でできているおばさんの家に入って、促されるままにソファに横になると、久しぶりの心地よい眠りに落ちた。


マヤおばさんは、村の人からも家畜や動物からも頼りにされ、慕われている不思議な人だった。「コウノトリの婦人」と呼ばれているが、その理由は誰も教えてくれない。羊飼いの少年アイハンも「あの人が、自分で言ってくれるよ」と答えるだけだ。


ある日、ギョクチェは、父さんと母さんのこと、自分がどうしたらいいのかわからないことを打ち明ける。するとマヤおばさんは、ギョクチェを森の旅に連れ出した。その森は「黒い森」と呼ばれている。マヤおばさんは、「あたしたちは、みんなあの森から来たんだよ。あたしたちは、森の民だ」と言った。ギョクチェとマヤおばさんは、たったふたりきりで木々が複雑に絡み合った「黒い森」へ分け入ることになった。


子どもたちには、必ず自分に悩む時期がある。森の奥の奥で自分と向き合うことにより、その悩みを超え、心の奥底を見つめなおす旅を描いた作品だとハンデさんは語った。「医師としての自然の力というものを、文章にしたらこうなるでしょう」とも。



© suzuki ikuko


トルコ黒海地方の森。暗く深く、霧が出ることも多い。急峻な山が一気に黒海沿岸へ落ち込む地形のため、川の流れが速く水量も多い。ギョクチェが足を踏み入れた「黒い森」はこのような姿かもしれない




© suzuki ikuko


こちらはエーゲ海地方や地中海地方に多く見られる明るい森。主にあまり背の高くない松の木が茂る。黒海地方に比べ、空気は乾燥している




執筆者プロフィール

Ömer Açık
(オメル・アチュック)
1980年、アダナ生まれ。ハジェテペ大学教育学部を卒業後、アダナ、マルディン、イスタンブルで教師として勤務する。子どもたちと遊ぶこと、市場をめぐること、旅行を愛する。『三色すみれの咲く駅』(2015)、『すてきなぼくの父さん』(2015)、『マントがない』(2017)に続き、ギュンウシュウ出版から『たしかな人』(2018)を発表した。

妻、娘とともにイスタンブルに暮らす。



Ahmet Büke
(アフメット・ビュケ)
1970年、マニサ生まれ。1997年、イズミル・ドクズ・エイリュル大学経済行政学部経済学科を卒業。2008年、『額を青に』で、オウズ・アタイ文学賞、『クムルの見たもの』で、2011年サイト・ファーイク文学賞を受賞した。多くの雑誌で精力的に作品を発表してきた。近年、活動の場を雑誌からインターネットに移している。ギュンウシュウ出版での最初の作品となる『深い問題』(2013年)も、「ON8」文庫のブログに連載されていた『ベドの本棚』を書籍化したもの。自身の発表の場としても、複数のブログをもっている。ブログの「社会的些細なこと辞典」をまとめた『密かに愛しむ人たちの会』(2016)などの「ON8」文庫、『わあ! パパが詩をかいた!』(2018)などの児童書作品を、ギュンウシュウ出版から発表している。2015年に、書籍について独自の視線で解析・紹介をする、『百の奇妙な本』を発表した。

妻、娘とともにイズミルに暮らす。

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Hande DEMİRTAŞ
(ハンデ・デミルタシュ)

1970年、イスタンブル生まれ。大学で、美術品の修復を学ぶ。1995年、ギュンウシュウ出版の創設に関わって以来、同出版社に勤務。さまざまな部署を経て、現在はギュンウシュウ出版の著作全般に責任をもつ副社長として業務にあたっている。会社経営にも携わりつつ、出版される全著作物に目を通し、最終的なチェックを行う役割も担っている。