第32回
1.Tavşan Dişli Bir Gözlemecinin Notları /『ウサギ前歯の観察者によるおぼえ書き』
ベヒチ・アクが文章と挿し絵を手がける、表紙が印象的な唯一の子どもたちシリーズ。「今の都会に生きる子どもたち」に向けて、メッセージを送るシリーズの最新作。
「観察者」として自然をながめ、歩きまわることが大好きな少年が、「生きるとはどういうことか」を考える。哲学的ともいえるテーマだが、ベヒチ・アクのユーモアによって、楽しい作品に仕上がっている。
小学校中学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
ぼくは学校ではいいところがない。かといって成績が悪いわけでもないけれど。そもそも、ぼくがそれほど「できるやつ」じゃない、ということもある。手先も器用じゃないし、絵をかくのも苦手だし、字も下手だ。先生は、大きくなれば自然にできるようになると言うけれど。
ぼくが好きなこと、得意なことは「観察」だ。でも「観察」能力は、学校では何の役にも立たない。観察屋っていう職業はあるんだろうか。大人になったら、自分で事務所を開いて、ドアに「観察屋」と書くのはどうだろう。
春になると、ぼくの通学路はどんどん遠回りになる。近道は最大の敵。気がつくと通学路からそれて森の中に入っている。まだつぼみの枝の先をながめながら、花が咲くのを待っていたりするんだ。
主人公の「ぼく」は、植物や鳥、動物を観察して、名前をつけるのが好き。おじさんは、彼を猟師にしようとするが、どうしても動物を殺すことができない。ある日、狩の見回りに出た彼は気がつくと、ウサギ、スカンク、キリン、キツネなどの動物が暮らす世界の争いの真っただ中に飛びこんでいた。
彼は頭を使い、自分の気持ちを確かめながら、問題を解決することになる。編集部は、作品は一種の哲学書であり、子どもたちが自分の力というものをどうやって見つけるかを、ユーモアを交えて描いていると評する。
2.Turne Dedektifleri /『劇団探偵』
Babam Nereye Gitti?(『父さんはどこへ消えた?』)のシリーズで人気のセヴギ・サイグの作品。得意とする推理小説や、脚本などを手がけた自身の経験をいかし、事件解決に乗り出した素人劇団の活躍をえがく。編集部は、作者本人の暗号好きや推理小説好きが大いに反映された作品と評している。
小学校中学年以上推奨。
© Günışığı Kitaplığı
フラットと家族は、「空飛ぶじゅうたん劇団」に所属している。毎年、学校が夏休みになると、一家そろって劇団の地方公演のバスに乗りこみ、ツアーに参加する。トルコ中を回って、いろいろなお祭り、あちこちの舞台や劇場で劇を披露するのだ。
その夏は、イズミルを出発する劇団のツアーバスに、有名な俳優のメフタプ・アイジャンも乗ることになった。フラットはといえば、推理ものの舞台の脚本を書き上げること、いちばん仲の良い友だちデニズと探偵役をやることを目標に劇団のツアーに参加した。しかしフラットもデニズも、主役の探偵「ピノキオ」をやりたいと言ってたがいに譲らず、ツアーのあいだ、けんかをするはめになる。
ツアーバスがベルガマの会場に到着したとき、本当に事件が発生した。フラットは、「本物の探偵が必要なときだ」と考えた。
© Suzuki ikuko
ベルガマはイズミル県の北部にあり、かつてのペルガモン王国の首都の遺跡が残る。王国は紀元前3世紀半ばから2世紀にかけて繁栄した。山の斜面を埋めつくす巨大な劇場あとを見ることができる
© Suzuki ikuko
劇場の最上部から。急峻で、踏み外したら下まで一直線、と思うと歩いておりるのが怖い
作者が熟知した、舞台、演劇、脚本などが軸にあるため、大変リアリティに富んでおり、テンポよく物語が進むのであっとうまに読めてしまう、とハンデさんはおっしゃっていた。また、現代の子どもたちらしく、デジタルツールを駆使するところなど、「今っぽい」探偵ものに仕上がっている。