第40回
1.Lokumlu Masa /『おやつのテーブル』
文学の教師として長年勤務してきたギュルセン・オゼンが、自身の体験を下敷きにして子どもたちの世界を描いた9編からなる短編集。教師時代に書きためてきた作品が収められている。
小学校中学年以上推奨。
「どの役も大切」では、学年末にクラスの出し物として行われる、劇の行方を描いている。
5Aの担任、サフィエ先生は、クラス劇の役の割りふりに大いに頭を悩ませた。全員に配役、裏方の仕事がいきわたるように割りふったけれど、みんなが満足しているわけでないことはわかっている。それでも、仕方ない、ほかに方法はなかったので。
子どもたちは、自分の役割が決まると、家に帰って家族に報告した。ハカンは、とにかく興奮してこう言った。「ぼくがもらった役はなんだと思う?」。父さんはこう答えた。「店の小僧かな」。「お父さん、からかわないでよ! ぼくは、助監督なんだ!」。
フラットとメルトは、プロンプターになった。任されたとき、ふたりは「プロンプターってなんだ?」と顔を見合わせた。でも家族に報告する前に、ちゃんと調べておいた。アッティラは、家の電気をつけたり消したりして「照明係、登場!」と、母さんに怒られるまでくり返した。ギョクチェは木になった。満足した配役ではなかったけれど、いちばんの仲良しチュナルといっしょに木をやるので、まあいいやと思った。アイチャの役は、市場で店を出す村の女性だった。父さんは笑ってアイチャの丸いほおにキスをすると、「どの役も大切なんだよ」とささやいた。
ほか、「願いの木」「サルケントまで12キロメートル」「おやつのテーブル」「道の上でひとりぼっち」など。兄弟や家族のつながり、初めての家出、文学コンテストなどさまざまなテーマで、子どもたちの生き生きした姿を描く。
作者は前置きの言葉に、「物語にインスピレーションを与えてくれた、私が出会った、そしてまだ出会っていない子どもたちへ」と書いている。
2.Çok Uzak Bir Deniz /『はるか遠くの海』
シェネル・シュキュル・イーイトレルの作品。イスタンブルで働いていた小さな連絡船が、トルコの東端カルスにあるヴァン湖で新たな活躍をする姿を描く。
小学校中学年以上推奨。
イスタンブルの金角湾から、アジアサイドのウスキュダルまで。小さな連絡船デフテルダルの航路はいつも同じ。金角湾のドックで作られて進水してから20年、まったく変わりばえのしない毎日だ。連絡船仲間はたくさんいるし、名前を知っている鳥たちとも仲良しだ。それでもデフテルダルは、大きな海へ出てみたくて、毎日しずみこんでいた。エンジンの音も元気がない。
20年来、デフテルダルとコンビを組んでいるアリ船長は、エンジンの音に元気がなく、すっかりしずみこんでいる船を心配していた。「ドックに持っていって、全部調べてもらった方がいいかな」と。
ある日、金角湾の船着き場を出てウスキュダルへ向かうとちゅう、デフテルダルはアリ船長のいうことを聞かなくなった。金角湾とボスフォラス海峡は、たくさんの船が行き交うので、船長たちは注意に注意を重ねているのに、だ。デフテルダルは、アジアサイドのカドゥキョイから出てきた船にぶつかりそうになり、アリ船長がそれをなんとかかわしたと思ったら、海のまん中に立っている乙女の塔に衝突寸前になる。もどりの航路もそうだった。デフテルダルはマルマラ海へ、大海の方へと行きたがり、アリ船長は必死で舵にしがみつかなくてはならなかった。
©Suzuki ikuko
イスタンブルのアジアサイドとヨーロッパサイドのまん中、ボスフォラス海峡に立つ乙女の塔
この危険な運転のせいでデフテルダルの運命は変わった。広い海に出してもらえるらしい。喜んでいたデフテルダルだが、連れてこられたのは、トルコで一番大きな湖ヴァンだった。しかも、ヴァン湖には怪物までいるという。
ヴァン湖の怪物は、ネス湖のネッシーのようなもの。目撃者は多く、15メートルほどの巨大な生物とされ、明確な(明確すぎるとも言われる)写真もある。当然ながら存在は否定されているが、熱心に探し続ける人もいるし、ヴァンのゲヴァシュには銅像もある。