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第3回
番外編 ショートショートの私的試み


子どもがなかった王さまとお妃さまが、カエルに予言されたとおり、赤ちゃんが生まれるのをどんなに待っていたか。
それはそれはかわいい女の子が生まれて、どんなににぎやかなお祝いの宴会が催されたか。
 
そっと塔を降りたわたしは赤ちゃんのそばによりそって、かたときもそばをはなれないお相手になった。

お祝いには12人のうらない女たちがてんでに髪に花をかざり、リュートを持ち、実った麦の穂を手にやってきて、お姫さまとして生まれついた赤ちゃんに、つぎつぎとしあわせなおくりものをおくった。

けれども12にんめにやってきたのは、招かれなかった黒い衣のうらない女。不吉なことばに赤ちゃんは泣きわめき、うらない女たちは青ざめて立ちすくんだ。

黒いうらない女が赤ちゃんに15歳までの命しか許さなかったのを聞いて、わたしは思わず王さまのマントのかげに頭を隠したのだけれど、それはこわいからではなかった。

さいごに一人残っていたうらない女が、死を眠りに変えてくれたにしても、赤ちゃんはつむでゆびをついてしまうことにはかわりない。

王さまが国中に命令を出し、つむを焼き捨てさせたとき、わたしはお姫さまを抱いた王さまといっしょに城壁から、ひとびとがつむを焼くようす、その煙が立ち上るさまを見ていた。
王さまは満足そうにほほえんでいたけれど、わたしにはわかっていた。何も知らないお姫さまが15歳の年をぶじに超えることができないのを。
そしてその運命の先導をするのがじぶんだということも。

お姫さまが15になった時、王さまとお妃さまが留守をした。城中を探検してまわるお姫さまの先に立って、わたしは小さな塔にのぼっていくらせん階段へと案内した。わたしにはわかっていた。これがお姫さまのさけがたい運命だということが。

塔の小部屋で糸をつむぐわたしのあるじは、つむをやきすてろという王さまの命令の届かぬところにいる運命の女神。死ぬにしろ、眠りにつくにしろ、お姫さまはここに来る。

わたしは役目を果たした。ほら、お姫さまを連れてきたわ、好きにすればいい。

つむに指をさされたお姫さまとお城のすべては、そこから100年間の眠りについた。
わたしもまたお姫さまの足元で、100年のあいだ眠っていた。やがてやってきた王子が、茂ったバラのつるを切り開いて、お姫さまを救い出すその日まで。

王子とお姫さまの結婚式がはなやかに催され、料理番がそれは豪華で大きなウェディング・ケーキを作り、料理番のこぞうさんがそれを運んでいった。

わたしを知っている人はあまりいない。グリムのお兄さんも弟さんも、塔のてっぺんに住む糸つむぎ女が、ネコを飼っていることを知らなかった。フェリクスさんくらいかしら、わたしの役割に気がついて、ひそかにページに姿を描きこんでくれたのは。

でも、そのフェリクスさんでさえ知らないのは、豪華なウェディング・ケーキのアイシングを、わたしがこっそりなめていたこと。だからフェリクスさんの絵にそのことは描かれていない。

やがてお姫さまに赤ちゃんが生まれたら、またわたしはその子に道案内をしよう。小さな古い塔のてっぺんの、糸をつむいでいるあるじのところへ。

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グリム童話『ねむりひめ』
フェリク・ホフマン/え
せたていじ/やく
福音館書店