第7回
ギュンウシュウ出版の新文庫はON8文庫という。これまでは、通常の小説としても扱える作品もヤングアダルトのジャンルとしてひとまとめにしていたが、2014年にカタログを作り、これを新文庫として発表した。翻訳作品が主で、ウォルター・ディーン・マイヤーズ、ゾラン・ドヴェンカー、アン・キャシディ、ウォルフガング・ヘルンドルフ、フィリップ・リーヴなどの作品がラインナップされている。ここに新たに4人のトルコ人作家の新作が加わり、2014年11月現在、文庫は35冊となっている。
1 Peri Efsa /『ぺリ・エフサ』
ギュンウシュウの小学校高学年向けの作品、Babam Nereye Gitti?(父さんはどこ?、2009年)、 Gizemli Günler(隠された日々、2013年)などで人気がある、Sevgi SAYGI(セヴギ・サイグ)の作品。不思議な力を持つ少女ぺリ・エフサと、彼女の双子の兄弟セルメトの物語。
©Günışığı Kitaplığı
第二次大戦が終わる少し前、嵐の夜にイスタンブルのある屋敷で双子の兄妹が生まれた。母ベルナはお産を若さとの決別と捉え、特に難産だったぺリ・エフサを毛嫌いする。双子の「ねえや」になったスンビュルは、ぺリ・エフサには死者と言葉を交わす能力があるのだと気付く。それ以外にも不思議な力を見せるぺリ・エフサを、傍から見ればいじめているとしか見えない独特の方法で守る兄のセルメト。スンビュルはそんな双子の世界を守ってやりたいと思うが、ふたりが成長するにつれ、ぺリ・エフサの能力は隠しようがなくなってくる。
周囲から異質とみなされるひとりの少女によって、崩壊してゆく家族。愛情はあるのに、どうにもできない人間の嫌悪や絶望が描かれる。ファンタジーの香りを持ちながらも重厚な悲劇に仕上がったと、評価の高い作品。
2 Uzakta /『遠く』
ギュンウシュウの編集責任者としても活躍するMine SOYSAL(ミネ・ソイサル)の作品。ギュンウシュウのヤングアダルト作品で少女たちに人気のミネ・ソイサルが、全く異なる環境に育ったふたりの若者の交流を描く。
©Günışığı Kitaplığı
苦学生のエドは、教師になりたいと思い必死に勉強している。恩師ふたりのような立派な人になるのが彼の目標だが、大学に行くための予備校資金などの問題で行き詰まりを覚えている。一方のデュンヤは、何不自由なく暮らす資産家の娘。毎日のようにパーティーはあるが、自分の未来が見えず、今の状態に微かな焦燥感を抱いている。
ふたりの人生は交わるはずがなかったが、イスタンブルを出た旅先の宿である夜、偶然に出会う。閉塞感の中にある若者たちはその一晩だけ、互いの苦悩を吐き出し合うことになる。若者の心理を描くのに長けたミネ・ソイサルが、ヤングアダルトだけではなく、上の世代に向けて描く青春小説。
3 Saklambaç /『隠れ子』
第6回でKömür Karası Çocuk /『石炭色の少年』を紹介したMüge İPLİKÇİ(ミュゲ・イプリッキチ)が、祖父と若さゆえの悩みに揺れる孫娘の関係を描く。
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屋敷に爆弾が落ちた。屋敷の人々は何とか逃れ、近所の人々と一緒に避難する。非難した人々は洞窟を見つけ、そこに残る人と、駅へ向かい別の街で新たな人生を始める人に分かれた。駅に向かった人々の中にまだ幼い少年がいた。フンダの祖父サーミである。
フンダは何かから逃げたいという焦燥感の中、祖父への愛情から彼の記憶をたどることで、何とか自分の道を見つけようとする。だが、少しずつ明らかになるのは、『忘れられるべき』記憶だった。
4 Mevzumuz Derin /『深い問題』
インターネット上に作品を発表してきたAhmet BÜKE(アフメット・ビュケ)が自身が住むイズミルを舞台に描く、一人の青年の物語。ON8のブログに連載されていた、『ベドの本棚』を2013年に書籍化した。
©Günışığı Kitaplığı
イズミルに暮らす青年ベドは、何一つ覚えていない父親の影を求め続けている。どこかで生きているはずだからだ。父を知ることができない限り、人生はベドにとって答えのない質問の連続でしかない。現実から目を背けようと本に没頭しようとしても、気がそがれるばかり。母は泣くだけで質問には答えてくれず、ベドは何とか自分と折り合いを付けようと必死になる。
イズミルからベドの声が運ばれてくるようだ、との高評価を受け、2013年のヤングアダルト最優秀作品に選ばれた。