第16回
1.Z Yalnızlığı /『孤独のZ』
ネスリハン・アジュが初めて手がけたヤングアダルト作品。ON8文庫。
© Günışığı Kitaplığı
主人公のセラップは高校生。親友のゼイネップの夢をよく見る。虹色に包まれたようなゼイネップは、いつもセラップの前を走っていき、橋の上から舞い降りるように飛びこむ。そこへ列車が走ってきて、彼女の上を通りすぎる。ゼイネップは、本当にメトロに飛びこんで死んでしまったのだ。テストでいい点が取れず、父親が望んでいたとおりの高校に入ることができなかったから。そして、それ以来ずっと、ゼイネップの幽霊はセラップのそばにいる。
セラップは、学校でも家族の中でも、人とうまくコミュニケーションを取ることができない。ゼイネップの幽霊が出るようになってから、それは一層ひどくなった。兄のように抑うつ症状が出ることを心配しながらも、孤独に慣れたセラップは日々を送っている。
作者は、現実的な苦悩を、婉曲な表現などで和らげることなく、社会システムの中に入ることのできない若者独特の感覚や、彼らに影響を与えるものを描きだしている。
2.Beni Beklerken /『私を待つ間に』
新聞記者でもあるスィベル・オラルが2006年に発表した同タイトルのヤングアダルト作品を、改めて加筆修正した。ON8文庫。
© Günışığı Kitaplığı
現代トルコで生きる少女、オズレムとドゥイグ。ふたりは友人同士で、特にオズレムにとってドゥイグは、最初の、そして唯一の友人だった。互いに、今の年齢が好きではない。オズレムは小さいころに戻りたいと思うし、ドゥイグは、早く成長して大人になりたいと思っている。「自分はいったい誰なのか」というのがオズレムの抱える問いであり、「自分はいったい誰になるのか」というのがドゥイグの抱える不安である。自分たちの態度が、家族にも周囲にも、そして自分たち自身に対しても非常に無慈悲なものであることを自覚してはいるが、そのとげとげしさから抜け出すことのできない、若者たちの苦悩が描かれる。
オズレムは母のことでも悩みを抱えている。母についてはときには亡くなったと言われ、ときには最初からいなかったと言われているのだ。さらに、「X婦人」と呼ぶ女性と父親との関係も彼女を苦しめる。
作者は、作品の背景として様々な音楽を織り込んでおり、これらの音楽をインターネットサイトで聞くことができるというコラボレーション企画も実施されている。
3.Gizli Sevenler Cemiyeti /『密かに愛しむ人たちの会』
インターネット上に作品を発表しているアフメット・ビュケの短編集。ON8のブログで毎週月曜日に連載されていた、「社会的些細なこと辞典」を本にまとめた二冊目となる。
© Günışığı Kitaplığı
「祖母と祖父に捧ぐ辞書」では、主人公の青年が自分を育ててくれた、祖父母の思い出をつづっていく。彼は両親を早くに亡くし、父方の祖父母に育てられた。両親がなくなったことと同時に、「死」というものは誰にでも訪れること、自分の祖父母にも遠からず訪れることも理解した。そこで彼は、とにかくよくしゃべる夫婦であった祖父母の発言を書き留めて、辞書を作ろうと決める。
「ふくろう」の項目では、おしゃべりな祖父母が唯一沈黙するのが、ソラマメをさやから出す時だったとつづられる。ふたりは差し向かいに座り、何も言わずただ黙ってソラマメをむく。時々、祖父が小さい豆を口に放り込み、祖母は眼鏡の上から黙ってにらむ。その姿は、祖父がアルツハイマーとなり、祖母がひとりでソラマメをむくようになっても変わらなかった。また、「秘密」の項目では、中学校の学費をかせぐために、夏休みのアルバイトをしたときの事件が語られる。
村の中での日々が次々と語られる本作には、主人公が「貯め込んだ」24の短編が収められている。
アフメット・ビュケの、「社会的些細なこと辞典」を本にまとめた最初の作品がİnsan Kendine de İyi Gelir(人とはこれ、良きもの)である。
© Günışığı Kitaplığı
こちらは、2015年に雑誌Dünya Kitapにおいて推薦図書賞を受賞し、版を重ねている。本作は、これに続く第二弾として期待が高く、実際に人気の作品となっている。